2017年12月29日金曜日

Do the right thing

高校バスケットボールの冬の祭典、ウインターカップが終わりました。
初出場の神奈川県代表・厚木東高校は、
ベスト8という素晴らしい結果を残してくれました。
私学がこぞって外国人留学生を入れている今の高校バスケ界で、
外国人はおろか県外選手を入れることも出来ない県立高校が
ベスト8に残るというのは、間違いなく快挙に値します。

強豪私立に県立高校がどう立ち向かうか。
ハードなディフェンスと速攻、
そしてハーフコートオフェンスでも動きを絶やさない全員バスケット。
それは、バスケットをしていた者なら分かっていることです。
でも、40分その動きをすることは無理。
だから選手交代で戦力を落とさないチーム作りが必要。
それも皆、分かっていることです。
でも、誰も出来なかった。
例えば9の戦力を持つ選手を9の戦力のまま輝かせるために、
7の戦力の選手と交代させられるか、
例えば9の戦力を持つ選手が疲れて6に戦力が落ちた時、
7の選手と交代できるか。
これが出来ないんです。
「エースに任せる」と言えば聞こえは良いし、
監督が全責任を負っているような印象になりますが、
実は負けても非難されない選択でもあるからです。
それを厚木東は、交代選手によってチームカラーを変えるという
戦術によって完成させました。
誰もが正しいと思い、そして出来ないと思っていたチーム、
それが厚木東なのです。
監督と選手の努力は並大抵のものではなかったはずです。
東京体育館でその雄姿を見れなかったのは、とても残念でした。

私が観戦に行けたのは厚木東が負けた翌日、
女子の決勝と男子のベスト4の戦いでした。
到着したのはお昼前、女子決勝の第2Q。
大阪桐蔭VS安城学園の試合でした。
福岡大大濠VS福岡第一と言う次の試合をメインにしていた私は、
気軽な気持ちで見始めました。
それが過去10年でもベストゲームと言える試合になるとは思いもせずに。
大阪桐蔭には今大会注目のセンター、竹原選手がいましたが、
安城学園は3人がマークに付く徹底ぶり。
ファールトラブルを誘い、竹原選手をベンチに下げさせます。
エースを失った大阪桐蔭は絶体絶命のピンチでした。
しかし、そこから♯6鈴木選手の無双が始まりるのです。
これまではゲームメイクとパサーに徹していた身長156㎝の小さな選手が、
切れのあるドライブインで果敢にリングに向かい、
少しでもフリーであれば3ポイントを打ち続けます。
それだけなら「良い選手」で終わるのですが、
ドライブインのシュートが外れてからのリバウンド争い、
そして再び鈴木選手に戻ってきたボールを、躊躇なく3ポイントエリアから打つのです。
普通、打てないです。1点差の決勝戦で。
どこかでミスを続けたくないという心理が働いてしまうから。
その後も鈴木選手はドライブインを何度か試みるのですが、
なぜかリングに嫌われてしまいます。
(背の低い選手はブロックを避けるように微妙に打ち方に変化を付けるので
入れるのが難しいのです)
それでも、行く。それでも、打つ。
そして相手に速攻を掛けられれば、後ろからもの凄いスピードでチェイスして、
ドリブルを叩きに行く。
相手チームのワンマン速攻に視界の外から突然現れてきた時は、
「え?今、どこから追いかけてきた?」と目の前で見ている私すら驚くほどでした。
そして、もつれにもつれてダブルオーバータイムに突入にした残り数秒、
鈴木選手にボールが渡ります。
オーバータイム前の試合終了直前には、同点の3ポイントを決めていました。
安城ディフェンスは当然警戒してタイトにつきます。
そこをフェイクからの鋭いドライブイン。
会場の誰もが「来た!」と思いました。
しかしそれを予想していた安城ディフェンスの早いカバー、
でも会場の誰もが「あの選手なら行く!」と思った次の瞬間、
鈴木選手の手はリングではなく、ディフェンスの間を通ってフリーのチームメイトへ。
ドライブインからの初めてのパスは難なくリングに吸い込まれ、
その直後にゲームセットのホイッスルが鳴り響きました。
もう「スラムダンク(漫画)かよ!」って突っ込みを入れたくなるほどでした。
中心選手の竹原選手がいない、
だから中へ切れ込んでかき回すしかない、
でもそれだけは動きを読まれてしまう。
だから外から打ってディフェンスを広げるしかない、
分かっているんです。バスケットをした者なら。
でも、それを1点差の決勝戦で出来るか、
シュートを外しても打ち続けられるか、と言ったら無理です。
事実、試合後にツイッターで検索したら、鈴木選手を絶賛する声がほとんどでした。
(やられている方は「大阪桐蔭の6番」で検索してみてください)

試合後の帰り道、私は独立する前の自分のことを思い出していました。
家具店の中のカーテン売り場を一人でやっていた私には上司がいませんでした。
自分が思ったことをやれる良い面もありましたが、
自分に都合の良い理屈をつけて嫌なことを避けることも出来るという
悪い面もありました。
だから私はずっとある言葉を自分のルールにしてきました。
「Do the right thing」
正しいことをしよう、と。
売場の方針を決める時、
近くにチェーン店が出来て売上が落ち込んだ時、
お客様にご迷惑をかけた時。
私はいつもこの言葉を頭の中で念仏のように唱えながら、
自分がどうするべきかを考え、それに従ってきました。
自分が決めると、自分に都合の良い結論を出してしまうから。
そしてそれは、今も変わりません。

来年、厚木東や鈴木選手のように、
人の心に届く正しさを持てるように、今まで以上に頑張っていきたいと思います。
今年一年、本当にありがとうございました。

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